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Un Chien Andalou

【西村佳哲さん講演レポ】人の話を「きく」とはどういう事なのか?


西村佳哲(にしむら・よしあき)さんは、働き方研究家という肩書きで活動をしていた(確か今はなんか違うかもみたいな話をどっかでしていた)、つくる・書く・教えるを生業としている人だ。著書も多くあり、特に『自分の仕事をつくる』はベストセラーになっている。私も昨年読んだ本の中では、もっとも印象に残っている1冊である。

 

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自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

自分の仕事をつくる (ちくま文庫)

  

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さて、ひょんなことから彼の講義を受けることになったので、ここにメモとして残しておく。テーマは「きく」ということについてだ。きく、という表記がひらがなになっているのもポイントで、後々大きく関わってくることになる。

 

 

 

人の話を「きく」とは、一体どういうことなのか。そして、その逆である「きかない」とは、どういうことなのか。それに関する考察と講義メモである。

 

 

 

「きく」とはどういう行為なのか

多くの人が使う「人の話をきく」とは、話から得られる情報を処理することができるという意味で使われる場合が多い。「遊んだおもちゃを片付けなさい」と言われて、片付けたら「人の話をちゃんときいた」ことになり、片付けなかったら「人の話をきいてない」ことになる。要は、内容を汲み取れているかいないかが重要視される。

 

 

 

しかし、西村さんはそれだけではないのではないかと言う。

 

 

 

そもそもコミュニケーションの手段である会話は、きいてくれる人がいて、初めて成立するのではないか。彼はそう提言していた。つまり、一見優位に見える「話し手」は、「聞き手」に対して圧倒的に弱い立場なのではないかと言うことだ。充実したコミュニケーションにおいて重要なのは、話し手に「あぁ、私の話を聞いてもらえた」という実感を残すことだ。そしてそのためには、聞き手の態度や相槌、雰囲気が鍵を握っているのだ。

 

 

 

相手を無視したり、相手の話を横取りしたり、否定したり、分かった風になってしまったりすると、どうしても話し手に「きいてもらえた」実感を残すことができない。そしてそれは多くの場合、話し手が話している途中で、聞き手の関心が相手から自分へと移行してしまうことが要因である。

 

 

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「最近ウチの家の猫がさぁ、なんか元気がないんだよね。もう歳なのかなぁー」

「へー。今何歳なの?」

 

「もう17歳。おじいちゃんなのよ」

「そっかー、私の実家にいる犬もね、実はこの前病気になったみたいでさぁ」

・・・

 

 

 

上の会話は別に相手の腰を折っている感はないし、仲の良い友達同士での普通のおしゃべりならよくある感じの雰囲気だろう。だけどこれも、「関心」それ自体は相手から自分へと移行しているのだ。分かりやすく大げさに言うと、相手の猫の話なんざどうでもよくて、自分の実家の犬の話がした~い!ということ。なんかさ、こうして書くと性格悪い人みたいに見えるよね笑。

 

 

 

このように、私たちは簡単に相手への関心が失せるようにできているらしい。みんな自分が一番可愛いのだ。自分のことばっかり考えて生きてたいんだよね、わかるわかる。友人との会話など、そんな面倒臭いことを考えなくても問題ないときもあるが、残念ながらそれではうまくいかないシーンもある。

 

 

 

一番厄介なのは、「相手の話を分かった気になる」現象だろう。一見相手の話を聞いているように見えて実際は自分のことばかり、という会話は身近なものではないだろうか。自分の過去の体験を勝手に引っ張り出して結びつけて、相手の体験が分かったように振る舞う。でも、本当の意味で相手の話を追体験することなんて不可能なはずだ。だから私はあなたではないし、あなたは私ではないと言う了解をお互いに持つことが重要である、と西村さんはいう。

 

 

 

さて、ではどうすれば私たちは気持ちよく会話ができるのだろうか?先ほどの4つのNGワードをひっくり返すと、このようになる。

 

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無視しないとか、否定しないとか、その辺はイッパシの大人ならまぁできて当然という感じですが。やっぱりここでも、「安易に理解しない」というのは重要ポイントですよね。ついついやってしまいがちなことです。

 

 

 

「きく」の意味と漢字について

冒頭でも少し触れましたが、「きく」と会えてひらがな表記にしていたのにも理由があったそうです。日常的に使われる「きく」は、大体この3種類。

 

 

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外から自然と聞こえてくるような「聞く」、心を向けてしっかり「聴く」、相手を尋ねるような少し鋭い印象を与える「訊く」。編や作りが違うから、それぞれ違ったように形作られているように見えますが、実はこれらの語源って同じなんだそうです。

 

  

 

そもそも漢字は中国から入ってきたもの。もちろんそれ以前にも「きく」という大和言葉は存在していたそうです。そしてその「きく」という大和言葉は、「何かに対して優れている」という意味。

 

 

 

確かに、「きく」という音だけで考えると、効く、利くなど、あらゆる漢字がありますよね。「薬が効く」とか「利き手」とか、何かに対して優れた効果を発揮しているとも捉えられます。

 

 

 

誰かの話をきくという行為も、もしかしたらとても難しいことで、スキルが求められるものだと考えられていたのかもしれませんね。こういった、歴史的な側面を知れたことも、今回の講義を一層印象づけてくれました。

 

 

 

おわりに

まぁ、普段の会話でそこまで深く考える必要はないにせよ、重要な場面でちゃんと人の話をきけないっつーのはダメなんじゃないかな。「ここぞ!」というときとか、少しセンシティブな話だったりとか。そういうときにこそ、「きくチカラ」は重要になってくる。「本当の意味で、ちゃんと人の話をきけているかな」ふとしたときに、ちょっと振り返るようにしたいなと思います。

 

 

 

最後に。西村さん、長い時間ありがとうございました。西村さんの、読者に確実に逃げ道を作らずロジカルに詰めてくる感じが、とても好きです笑。尊敬する人に直接会えて、教えていただけるって素晴らしいなぁ。幸せな体験を自分一人のものにしないために、今回記事に書き起こしました。

 

 

 

さて、みなさんは「きく」ことについて、どう感じたでしょうか?


あなたとの出会いにありがとう。またいつか。