カフカがとても好きですという話
フランツ・カフカ。知っていますか?「ある日、目が覚めたら虫になっていた」で有名な『変身』を書いたチェコ人作家です。税関で務める傍ら執筆活動をし、死後に20世紀を代表する作家として認知されましたが、彼はネガティブな名言を残している作家としても有名です。
最近カフカ関連の本を読んで、どんどんカフカの沼にハマっていくような感じがしています。もうね、めっちゃ好きです。一人でも多くの人にカフカという人間を知って欲しいなと思うくらいです。私のことは嫌いでも、カフカのことは嫌いにならないで下さいという感じです。
作品は読んでて難しいものも多いので、一度でいいから彼の手紙とか日記を読んでクスッて笑ってほしい。まじでたのむ300円あげるから!!!!
私がカフカに惹かれるのが、その超現代人的な考え方です。カフカは20世紀の人物ですが、めちゃくちゃ今の人(特にサラリーマン)と仲良くなれるだろうなぁと思う。そのくらい、なんというか今の時代と合っている考えを持っている人です。
カフカの残した言葉たち
有名なものだと、以下のようなものがあります。(因みに絵もカフカ作)
将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。将来にむかってつまずくこと、これはできます。いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
私はこの言葉に、ものすごく共感してしまうのです。
将来のことを考えて、とりあえず進んでいるような気でいるけど、上手くいかないことは日常茶飯事で。そこでぐるぐるぐるぐる頭で考えすぎている時間が、実は一番長かったりして、抜け出せなくて…。
本当は、倒れたままでいたい。これが一番楽だから。でも心のどこかでは、倒れたままじゃいけないことがちゃんとわかっている。だから悲しくて、つらい。
…どうでしょうか、形は違えど、共感できる部分もあるのではないでしょうか?
カフカは文学で生計を立てていくことを諦めていました。ちゃんと健康で、働いて、結婚して…と、いわゆる"普通であるべきだ"と考えていた人ですし、それが不可能な環境にいた人ではありません。だけど、そうすることが苦痛で仕方がなかった人です。
だから、倒れたままでいたかった。けど、それを一番許してやれないのは自分だったりすると。
いやぁ、もしかしたらいつの時代もこんな葛藤はあるあるなのかも知れませんね。
人間の根本的な弱さは、勝利を手にできないことではなく、せっかく手にした勝利を、活用しきれないことである
カフカは父にコンプレックスを抱いていました。父は体を張って家族を支え、カフカを大学まで行かせてやることが出来ています。身体的にも屈強で、痩せて背が高いカフカとは正反対だったようです。
そんな父親とつい比較してしまう、カフカの心情がよく表れている言葉です。
自分は恵まれている。そのことは分かっているのだけど、だからといって圧倒的な幸福を得られるようにできてはいない、と。
日本で生きている若者として、ちゃんと高等教育も受けることができて、食べ物にも困っていなくて、大きな病気もケガもなくて、快適に生きていること。もちろんそれは当たり前にある幸せではないことは分かってはいるけれど、だからといってみんながみんな超ハッピー!!幸せ☆とはならない。そんな現代と通ずるものがあります。
ぼくは父親になるという冒険に、決して旅立ってはならないでしょう
…ね?相当なコンプレックスです。
つい誰かと自分の生活や身体、考え方を比較してしまうのは誰でもあることです。カフカは、特に父に対する畏敬が強く、作品にもありありとそれがにじみ出ています。『変身』なんか、「もう家族も仕事も、とにかく人間関係がイヤだ!!!そんなものと無縁な、虫でいたいんだ!!!!」みたいな風に捉えられなくもないですしね。
ただ、カフカはここで「…いや、でも虫になったら本当に誰からも反応されないのか…うーん…それもなぁ…」みたいに思い悩むことが出来てしまう人です。だから面白いんですよね。とっても人間らしいなぁと思ってしまいます。
カフカを見て、「なんてネガティブな奴なんだろう」と一蹴して通り過ぎる人もいれば、何も考えずに見てみぬ振りをする人もいて、あるいは腕を引っ張って無理矢理起こそうとする人もいるでしょう。
私はカフカに共感でき過ぎて、もはや一緒に倒れて、世の中のあらゆることに絶望しながら笑って眠りにつきたいとすら思います。まぁカフカが今の時代を生きていたら、埋もれてしまっていたかもしれないんですが。
カフカの言葉たちからは、”そこはかとない絶望感”が漂っています。そういうネガティブな感情をシェアできるか否かって、相手の考え方にもよるじゃないですか。この人だったら弱音を吐ける、とか。この人には聞いてほしい、とか。
ネガティブ加減にもよるけど、特にギリギリにならないと人に打ち明けられないタイプの人間は、激しく感じる自己否定を相手に言えないことが多い。相手のことを勝手に慮り過ぎるみたいです。
で、満を持して打ち明けると「そんなことないよ」とか「そんなの考えすぎだよ」って言われたりする。ネガティブが悪だ、と考えることの恐ろしさみたいなものを考えると、この言葉はまじで悪魔の囁きだと思う。そういう話してねぇんだよ、とか心の中で毒づいてしまう。すまん。
ネガティブな自分を否定されると、またネガティブになってしまうんだよね。だから、最終的には自分で乗り越えるしかないんです。自分がモヤモヤしているとき、誰かが助けになってくれることはあっても、その人が自分に代わって根本解決してくれることは決してないから。最終的には全部自己責任。
それを知ってるからこそ、絶望をひっそりと言葉にしておくことって実は大事なんじゃないかなとも思うのです。すごく考えさせられる素敵な作品を書いた人だって、本当は生きづらさを抱えていたということ。どんな人だって悩みはあること。考え過ぎてしまうことだってたくさんあるってこと。その事実は、ちょっとだけ私たちの背中を押してくれます。
ブログでもTwitterでも日記でもiPhoneのメモでもなんでもよくて、ただ自分の思考の軌跡を辿ることが出来れば、あとは他人の言葉をゆっくり消化して自分で答えを出す。消化器官が弱い人は、おかゆレベルに優しく噛み砕いてあげてから、じっと自分の身体の源となるときを待つ。それしかないんです。
なぜ、人間は血のつまったただの袋ではないのだろうか
作品以上に、作家自身の生き方を知ると、本当に面白いです。本のその先にいる生身の人間を意識してみるだけで、まるで甘いチョコレートとブラックコーヒーを一緒に味わうかのような新しい深さが生まれますよ。
そして…
誰か、カフカを語れる人…カフカ好きな人…お友達になって下さい…!!
おまけ: おすすめカフカ関連作品
①作品を読みたい人向け
・『変身』
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1952/07/28
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一番キャッチーで親しみやすい『変身』は短編なので、数分で読み終わるレベル。一見「こいつ何言ってんだ?」と感じても、「なんでこんな物語を思いついたんだろう?」とか「これによって何を訴えたかったんだろう?」とか考えると、とても楽しい。
・『カフカ短編集』
カフカ作品は未完のものが多いですが、短編としてはいくつか作品があります。なかなか読みごたえがありますよ。
・『城』
- 作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,前田敬作
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1971/05/04
- メディア: 文庫
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とある測量士Kは仕事で城に出掛けていったが、肝心なその城には一向に辿り着く気配がない…というお話。近くて遠い、そんなお話。
②カフカという人をもっと知りたい人向け
文庫 絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決 (草思社文庫)
- 作者: フランツカフカ,ヨハン・ヴォルフガング・フォンゲーテ,頭木弘樹
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2018/06/05
- メディア: 文庫
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頭木弘樹さんという方の本は、カフカについて深掘りしていて、私自身読みまくってます。ご本人も、若くして病に苛まれて絶望していたときに文学に助けられたそうです。稀有な経験をしていらっしゃるだけに、その言葉には考えさせられるものがありますよ。また絶対読みたい。おすすめです!
・『絶望名人カフカの人生論』
こちらも頭木さんの作品。カフカの人物像に視点を当てています。新潮文庫の夏の100冊にも入っていて手にとりやすい一冊。
・『海辺のカフカ』
村上春樹の作品。フランツ・カフカはさっぱり出てきません。いや、ちょこっと話に出てくるかな…。でも一応、15歳の”カフカくん”が主人公です。村上春樹氏はカフカ作品に大きく影響された、とかなんとかそんな話もあるくらいなので、この本の不思議な雰囲気に惹かれたら、ぜひ文学のカフカにも挑戦してみてください。
あー、楽しかった。好きなものを語るって最高。